*『ジョゼと虎と魚たち』を観た

池脇千鶴妻夫木聡主演。
とりわけ注目していたわけでも、キャストがお気に入りなわけでもなくて、ただなんとなく映画が観たいなあと思ってレンタルビデオ屋に駆け込んだら、田辺聖子の小説と同名のタイトルに惹かれて借りてしまった。
いま観終わったばかりなのだけど、意外と最後まで飽きずに鑑賞できたと思う。大学生の男性と車椅子の女性が出会って恋をして、何ということもなく別れていく、何ということもない物語だった。本当に何ともなかったので特に思考の食指も動かず、画面を眺めているうちにサクサク物語が消化されていく快感を覚えた。でもその快感に身を浸してしまいよかったのかどうか、考えてみると甚だ疑わしい部分もある。
つい先日長野の美ヶ原高原美術館に行ってきたのだけど、だだっ広い敷地内に並べられた幾つものオブジェを見てまわるうちに、だんだん息が切れてきて足も痛くなってきて、なんだか凄く滅入った気分になってしまった。うまく言えないけれど、鑑賞という行為、一見鑑賞者が絶対的に優位であると思われているような営為の中で、でも作品を眼差すことがフィジカルな痛み、苦痛を伴ってしまうという、既存の関係性の倒錯って、けっこう自己相対化のうえで重要なファクターになりうるんじゃないだろうか。
だとしたら私はこの映画をすんなりと観終わってしまったけど、その「すんなり」っていう感覚を抱かせてしまう局面において、『ジョゼ…』の強度は著しく減退してしまう気がする。

ただくるりの曲だけは最高だった。それは間違いない。


*9/22 付記

確かに美ヶ原美術館での観賞行為の倒錯性っていうのは興味深いんだけど、それが同時に鑑賞者を選んでしまう装置であるということも触れておくべきだろう(高齢者、障害者はそのだだっ広い観賞コースの山道を辿るのは困難と思われる)。