迷子

地元の商店街をほっつき歩いてたら五歳くらいの女の子が唐突に私の足にぶつかり、挙句の果てに「マーマーー」と泣き(叫び)出してびっくりした。話を聞こうとしても聞ける状態ではなく、ただ数分しても一向に「マーマーー」らしき人が現れないので迷子だろうと判断し、引っ張って交番まで連れて行こうと思って手を握ったらなんか涙か鼻水かしんないけどベトベトで、でももう握っちゃったあとだったから仕方なくそのまま連れてく。その間中ずっと「マ、マーマーー」とかしゃくりあげているものだからなんだか私が誘拐犯みたいで、おまけに手はなんか汁っぽくなってて汚ねぇし、さすがにイライラしてきて「ふざけんなこのガキ」って殴ってやろうかと何回か考えさせられた。
そのあと警官にガキを預けて、そしたらいろいろ聞かれて、聞かれるままにいろいろと答えて、交番のトイレを借り手を洗って、ずっと泣き続けるその子を尻目にバスに乗り家へ帰ってきたのだけど、まあ私も迷子になった経験とか当然のようにあってあのときの心細さといったらそれはそれは泣くことを忘れてしまうほど心細かった、と記憶してる。あの「マーマーー」はほんとありえないくらいうざかったけど、それも仕方なかったかもねと真剣に思う。もうとっくにあの子はお母さんとの再会を果たしているだろうけど(そしてそれはもう「果たしているべき」というニュアンスに近い)、その瞬間が、私が交番を去ったあと一分でもはやく訪れていたらいいなと、わりとフランクに、無責任に、あとやっぱ真剣に思う。