『アフターダーク』

予想に違わず、あまり面白くなかった。
たぶん村上春樹の作品中、最低のつまらなさだ。
でも何がそんなに面白くないんだろうと考えると、よくわからない。
たとえば「向こう側(あっち側)/こちら側」というプロットが、冷戦崩壊、第一世界・第三世界へのオリエンタリズム批判など、あらゆる二項対立図式が破綻しているいま、どれほどの有効性を持ちうるのかといった月並みな批評に対して、でもそれを言ってしまえばドゥボールの「スペクタクル」をはじめ、現代社会において物語という要素自体がひとつの批判点になっているのだから、それは少なくとも『アフターダーク』のつまらなさとして特記すべき事項とはならないだろう。
また一部の批評家が力を注ぐ村上春樹批判は、まあそれなりに肯ける部分もあるのだけど、ただ大塚英志が『サブカルチャー文学論』の中で言うように、彼/彼女たちがその一方で称揚する村上龍に対して私はあまり好感を抱けない。批評の妥当性はともかくとして、私が納得していない以上、私による『アフターダーク』の感想をそうした既存の言説へ帰結させてしまってはいけないだろう。
この点に関しては、近々暇を見つけて考えてみるつもりだ。