『リリィ・シュシュのすべて』を観た

岩井俊二監督 市原隼人主演

リアルかと言われれば、「嘘くさくはない」と答えるしかなさそう。
たとえば不良少年の素行に対して、こんなの現実には起こりえないと批判があるとしたら、私はそれを真っ当な指摘だと思うだろう。また沖縄旅行のくだりなんかは、ちょっといくらなんでも旅行会社とかに怪しまれるだろ、と普通に思う。
ただそういう「リアリティ」の欠如した浅薄な閉塞感が、なんとも「嘘くさくはない」のだ。そのことをシミュラークルとかバーチャルリアリティだとか、たぶん言えないような気がする。私の生きている世界と、「リリィ・シュシュ〜」の世界とは絶対的に隔てられているという確信のあとに、つまりこの映画作品の物語世界に対してリアルだとかフィクションだとか言うことの愚かしさを自覚した直後に、でも「嘘くさくはない」よなーという感覚がふっと頭を過ぎる。
それはたぶん憧憬に似ているんじゃないだろうか。憧れることの愚かさを知りつつも、憧れてしまう。あの感覚をこの作品は私に生起させているのではないかと。
そんなことを観賞中にずっと考えていたのだけど、観終わって五分ほど経ってから、なんだこの嘘くさくない感は結局「自慰行為」だったんじゃんと思って、ひどく興ざめした。
でも忍成修吾がリリィの曲をヘッドホンで聴きながら、だだっ広い田園を背景に絶叫してるシーンには、ちょっと感動しちゃったのだけど。