恩田陸『夜のピクニック』

本屋大賞受賞作品ということで、前受賞作『博士の愛した数式』が面白かったこともあり期待して読んだんだけど、なかなかの読後感だ。単純にけっこう厚い本だってこともあるんだけど、最も興味深かったのは「足の痛み」というフィジカルな感覚が、メンタルな感覚、たとえばポジティヴからネガティヴへ、興奮から疲労へ、その振幅の変数として機能していたことかな。ストーリーは「歩行祭」なる高校生活最後の学校行事で数十キロを歩く高校生たちの「青春」群像なんだけど、その小説内で展開される世界ってのはまあ排他的で、「足の痛み」っていう部分から芽生えるちょっと気味悪い共同性みたいなものもあって、そこはちょっとなーとか思うことは思う。たとえばあくまでプライベートに認知されていたはずの「痛み」という表象不可能な感覚を、「同じ学校の生徒・歩行祭に参加しているみんな」の「痛み」として捉えてしまっちゃダメなわけではないけど、そこからはみ出してしまう余剰を描いてほしかったなぁと。本作ではそれがことごく上記のようなメンタルな変数として置き換えられてしまっていて、そのへんがちょっと物足りなかった。
結局そのフィジカルなものからメンタルなものへの移行が長所でもあり短所でもあるってことなのかなと、いま思った。